新型コロナ禍のテレワークが組織エンゲージメントとレピュテーションスコアに及ぼす影響
  • 更新:2023.05.19
  • 投稿:2022.11.25

新型コロナ禍のテレワークが組織エンゲージメントとレピュテーションスコアに及ぼす影響

研究レポートの要約

 本レポートでは、新型コロナ禍に伴う全社テレワークの導入が株式会社セプテーニ・ホールディングス1の従業員に与えた様々な影響を定量的に検討した。具体的には、2019年から2021年までの従業員のレピュテーションスコア2や組織に対するエンゲージメントの得点を対象として役職別に分析を実施し、テレワーク導入による影響の有無や、個性などによる影響の強弱を検討した。さらに、上記分析結果を補うために、従業員自身が思う「テレワークの課題」が何かを尋ねたアンケート調査の分析も併用した。分析の結果、(1)レピュテーションスコアの推移の傾向等から、特に管理職層が他の階層と比べテレワーク環境下での働き方に苦慮していることが読み取れた。互いに顔が見えない中での新たなマネジメント手法や、部下のコンディション把握を容易にする技術の開発等を通した、管理職層への支援が望まれる。加えて(2)メンバー層3はテレワーク下でもレピュテーションスコアが向上しやすいが、組織に対するエンゲージメントに低下傾向がみられた。アンケート調査の結果も踏まえると、背景にはテレワークによって同僚や同期などと業務外で行うコミュニケーションの頻度が減ったことがあると推測される。従って、メンバー層に対しては同僚や同期を中心とする業務内外のネットワーク形成を容易にする支援を行うことで、組織に対するエンゲージメントを維持・向上し、またそうしたネットワークから得られる様々なサポートや情報によって活躍を促すことが必要と考えられる。

1 分析の対象とした会社は株式会社セプテーニ・ホールディングス及び、同社が管掌する主たる国内事業会社である。本論文においては呼称の簡略化のため「セプテーニ・ホールディングス」として統一する。
2 株式会社セプテーニ・ホールディングスにて運用される 360度マルチサーベイにより算出されるスコア。全社員が全社員を評価することができ、同社では人材に関する周囲の「評判」を可視化した指標として扱われる。なお、Human Capital Report-No.17/2017.7.10にて同スコアと個々の従業員の業績指標に正の相関関係が確認されている。
3 同社における管理職に対して、所謂一般社員が「メンバー」と呼ばれる。新卒入社社員はここからキャリアを開始するため、最も若年層の従業員が多い階層となる。本レポートでは他の階層と区別するためこの呼称を用いる。

研究背景

1.はじめに

背景

 2020年の新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)流行開始以来、社会や企業を取り巻く環境は大きく変化している。中でも、テレワーク導入の進展は企業とそこで働く人にとって非常に大きな変化だった。セプテーニ・ホールディングスでも、2020年2月下旬にテレワークを全社規模で開始し、2021年9月現在で約1年半が経過した。
 一方で、こうした大規模なテレワークが企業や働く人に対してどのような影響を与えたのか、未だ明確な結論やコンセンサスは得られていない。テレワークによってコミュニケーションが悪化したと感じる人が多いとする調査結果もあるが(藤澤,2020)、特定の企業を対象に行われた調査では、チームワークの良さにテレワーク前後で変化が見られなかったとする研究もある4(縄田・池田・青島・山口,2021)。調査対象となった業種やチームの業務内容が異なるために、テレワークの効果も一貫していないものと推測できるが、明確な結論は得られていない。
 そこで本レポートでは、セプテーニ・ホールディングスで新型コロナ禍を経て誰に、どのような変化が起きたのか、定量的な分析を行った。同社では新型コロナ流行前から(1)従業員のレピュテーションスコアや(2)組織に対するエンゲージメントを継続的に測定している。これらの指標の新型コロナ流行前後の結果を比較することで、「後から振り返ってどのような影響があったと思うか」を回答者本人に事後的に尋ねるアンケート調査以上に客観的な示唆を得ることが可能である。こうしたいわゆる「人事データ」の分析に加えて、不足する情報を補うために、本レポートでは(3)従業員を対象としたテレワーク利用に関するアンケート調査の分析も行った。以上の分析により、「新型コロナ禍の働き方」に関する現状の傾向を定量的に把握するとともに、ウィズコロナないしアフターコロナを見据えて今後の最適な働き方を目指し、それに必要な支援の手がかりを得ることを目指す。

4 ただし同研究は研究開発部門を対象としていることや、新型コロナ流行前から既に分散勤務のような状態にあったこと、そして新型コロナ流行前から既にでき上がっていたチームを対象とした変化の研究だったことなど、課題も著者自ら多く挙げており、確実な結論が見いだされたとは言えない。

本研究の概要

 前掲の通り、本レポートでは(1)社内に継続して蓄積されている人事データ分析と、(2)新型コロナ流行後に実施した従業員アンケート調査分析の2つを併用し、ウィズ・アフターコロナの働き方を展望する。

研究の仮説として、新型コロナ禍のテレワークは、従業員のレピュテーションスコアと組織に対するエンゲージメントに影響を与えたのではないかと考えた。
 まずレピュテーションスコアに対する影響だが、縄田ほか(2021)の研究などに見られる通り、今般のテレワークは必ずしも従業員のパフォーマンスを一律に低下させるとは限らない。一方で、昨今のテレワークは管理職に対して特に困難をもたらしたという指摘もある。神谷(2021)によれば、テレワーク導入は会社や従業員にとっての「自律」のあり方についての問題提起となっており、特に管理職にとっては部下の様子が分からないなかでどのように適切に部下に自律を促すか、その力量が問われるきっかけにもなったとされる。一般的に管理職の主な業務は部下のコンディションを把握し、メンバーを一つのチームとしてまとめることにある。対面でコンディション把握を自然に行えた従来の働き方とは異なり、テレワーク下ではこうした管理職の役割を果たすことが困難になるのではないか。以上を踏まえて、テレワークは全従業員のレピュテーションスコアを一律に下げることはないが、従来の「顔が見える働き方」に適応したマネジメント手法を活用しづらいがゆえに、管理職のレピュテーションスコアを停滞させるのではないかと本研究では予測する。
 次に組織へのエンゲージメントに対する影響についても定量的に検討を行うが、こちらについては明確な仮説を設けずに分析を行った。過去に行われた調査・研究の結果も一貫しておらず、①テレワークが従業員の組織に対するエンゲージメントを高めたとする調査結果(Emotion Tech,2021;藤澤,2020)、②職種などによってはエンゲージメントを低めたとする調査結果(Wevox,2021)などがあり、学術的にも未だ一貫した結論が得られていない。更に、テレワークによってワークライフバランスが改善し、会社における働きやすさに寄与したとする調査結果もある(アドビ株式会社,2021)。これらの点を踏まえると、テレワークが組織へのエンゲージメントを低めたとも高めたとも仮説を立てることが困難だったため、本レポートではセプテーニ・ホールディングスにおける全社テレワークの影響を探索的に検討する。

 また、新型コロナ禍のテレワークへの適応のしやすさは、役職だけではなく、従業員のパーソナリティによっても異なるかもしれない。例えば、セプテーニ・ホールディングスで人材育成に使用されているFFS理論5におけるC因子6は合理性に関する因子であるとされるが、テレワークでは個の自律や論理的なテキストベースのやり取りが業務上重要となるために、C因子が強い従業員ほど活躍しやすい傾向も見られるかもしれない。ただしこの点についても、明確な仮説を立てるに足るだけの十分な理論やエビデンスが未だ得られていない。そこで本レポートでは、セプテーニ・ホールディングスで人材育成に活用されているFFSの各因子や、周囲との相性の良さが、テレワーク中の活躍に影響を与えたか否かを検討する。

5 株式会社ヒューマンロジック研究所が提供するFive Factors&Stressの略称。詳細は次のURLを参照
(http://www.human-logic.jp/about/)
6 FFS理論が規定する5つの個性因子のうちの1つ。「弁別性因子」と呼ばれ、「自らの内部・外部の状況を相反分別しようとする力の源泉となる因子」と定義されている。セプテーニ・ホールディングスにおいては、この因子の値が高い場合は「理論派」、低い場合は「直感派」として個々のパーソナリティの理解に活用されている。

 

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