人間関係構築を促す個性、および職場の特徴に関する分析
  • 更新:2023.05.19
  • 投稿:2022.11.25

人間関係構築を促す個性、および職場の特徴に関する分析

研究レポートの要約

本レポートでは、前回レポートで活躍・定着と定量的に関係していた人間関係上の特徴(ネットワーク指標)を用いて、どのような人が、あるいはどのような職場が、良好な人間関係を築くことができているのかについて研究を行った。①社員の個性、②職場の特徴、③両者の相性、という3つの観点から分析を行った結果、次の結果が得られた。まず①について、FFSの受容性や拡散性が高い人が人間関係を広げる傾向にあり、弁別性が高い人は人間関係が限られる傾向が見られた。続いて②については、保全性が高い人が同じ職場に集まった場合や、弁別性が低い人が一定数職場にいる場合に、良好な人間関係が構築しやすい傾向が見られた。最後に③に関して、FFSの特徴によって規模の大きい職場と、小さい職場のどちらの方が、人間関係構築の観点では向いているのかに違いが見られた。以上の結果をもとに、どのような個性の人に支援が必要か、またどのような個性の人・環境を組み合わせることが人間関係上有意義かについて考察を行った。

研究背景

問題

研究の問題意識

 過去のレポート(Human Capital Report No.24;正木・進藤,2018)では、セプテーニ・ホールディングスにおけるコミュニケーション・データを用いたネットワーク分析を行い、幅広い人間関係を持つことの重要性と、良好なコミュニケーションを保つ職場作りの重要性を定量的に示した。これは、ネットワーク分析を用いた様々な先行研究(e.g.Burt,1992)の知見とも一貫しており、人間関係の理論とも整合的な結果となった。
 ただしこのレポートと先行研究に共通する課題として、幅広い人間関係や良好なコミュニケーションの取れる職場をどのようにして作ることができるか、つまりネットワークの規定要因が明らかではない。これはデータ分析の目的が組織・職場の改善にある実務分野においては、特に大きな課題である。
 そこで本レポートではセプテーニ・ホールディングスで用いられている社員に関する様々なデータのうち、個人の特徴を捉えるFFS特性と、そこから導かれる職場の特徴と、ネットワーク形成の傾向の関係を分析した。分析にあたっては、前回のレポート(正木・進藤,2018)と同様に個人・職場の両方の単位の問いを設けた。個人に関する問いは「どのような人が、積極的なネットワーク形成を行うのか」である。そして職場に関する問いは「どのような人が集まる職場では、積極的なネットワーク形成が行われるのか」である。以上の2つの問いに関する定量的分析を通じて、どのような人がネットワーク形成を積極的に図り、またどのような人にはサポートが必要なのかを明らかにするとともに、コミュニケーションの充実した職場作りに有効な人材配置や人の組み合わせを検討したい。

人間関係形成の重要性

 本レポートの前提になる考え方が、ネットワーク形成が人材の活躍や定着を決める重要な要因であるという仮定である。人間関係、つまり「社会的ネットワーク」の定量分析では、そもそも人間関係を「点」と「線」の繋がりとして捉え、繋がりの種類(e.g.幅広い人と繋がっているか)や、繋がりの多さ(e.g.何人の人と繋がっているか)によって人間関係を数量化することを目指している。そして関連する先行研究では、この社会的ネットワークの分析を通じて、平易に言えば「特定の少数の人とだけでなく、幅広く様々な人と交流を持つ人の方が活躍しやすい」ということが指摘されてきた(Burt,1992;田原・三沢・山口,2013)。
 先行研究に見られるこの仮説ないし結果は、セプテーニ・ホールディングスにおける「感謝のメッセージの送り合い」でも支持された(正木・進藤,2018)。具体的には、感謝のメッセージを多く送り、また幅広いコミュニティに属する人に送っている人や、影響力のある人との間に関係がある人は、社内で活躍しやすく、また離職もしにくい傾向が見られた。先行研究では、社会的ネットワークを「人との繋がりの有無」や「コミュニケーションの量」のような、いわば質を問わない繋がりとして検討するものも見られる一方で(e.g.田原他,2013)、前回レポートでは「感謝のメッセージ」という、非常に良好な繋がりをもって社会的ネットワークと定義した。この違いを超えて先行研究の理論と整合的な結果が得られたことは、社会的ネットワークが人材の活躍や育成のうえで非常に重要な意味を持っていることを示唆している。
 また、前回レポートではもう一つの発見事実として、社員個人の持つ社会的ネットワークの状況だけでなく、所属する職場の社会的ネットワークの状況も定量化し、分析を行った。その結果、職場内でメッセージのやりとりが盛んに行われている職場(ネットワーク密度が高い)ほど、人材が活躍するとは言えないものの、人材が離職しにくくなるという傾向が見られた。これは「人間関係の悪さが退職のきっかけになる」という素朴な予想とも一致し、人材の定着の観点で、職場単位のネットワークの充実が持つ影響力を定量的に裏付ける結果を得た。

人間関係形成を促す要因

 しかし上記先行研究や前回レポートの課題として、人間関係構築が重要であることは定量的に示されたものの、その構築のためにどのような工夫・施策を取り得るのかまでは明らかにはなっていない。人事・組織の研究においては、理論的発見の重要性もさることながら、組織の改善に役立つ知見を得ることも同時に重要であるため、この点は非常に大きな課題だと考えられる。更に言えば、前回レポートで分析対象としたコミュニケーション・データは「感謝のメッセージ」という特殊なコミュニケーションのデータであることから、先行研究で発見された一般的なコミュニケーション(e.g.会話、親しい人間関係)を促進する要因を、そのまま施策に取り入れて良いかどうかも定かではない。
 以上のことから、前回レポートで実施したように人間関係の重要性を定量的に実証するだけでは不十分であり、その促進要因(人間関係を円滑にする要因)の分析までを行って、初めて一連の研究が成り立つと考えられる。

本研究の目的

 これらの課題を踏まえた本レポートの目的は、先述の課題に答えること、つまり「コミュニケーションを促す個人要因・職場要因を探ること」である。具体的には、次の3つの観点からこの目的に取り組んだ。

観点1:人間関係構築に繋がる個人差要因

 1つ目の観点が、個人差要因(個性などの人によって異なる要因)の影響に着目するものである。言い換えれば「どんな人が感謝のメッセージを多く、幅広く送るのか」という観点からの分析である。この検討を行うことで、メッセージを多く送る、いわば「キーパーソン」や「人付き合いの得意な人」が分かるとともに、人間関係構築の観点から優先的にフォローすべき人の特徴も明らかになる。
 本レポートでは、具体的にはセプテーニ・ホールディングスの各社員が持つFFS特性に着目した。FFSによって人材の特性がA~Eの5つの要素の相対的な強さと、個性のタイプによって把握可能である。このFFSによって定量化された人材の特徴と、社会的ネットワーク構築の関係について定量的に分析を試みた。

観点2:良好な人間関係に繋がる職場要因

 2つ目の観点が、社員個人ではなく、職場の特徴に注目するものである。前回レポートでは、人材の定着を促す職場の特徴として、ネットワークの密度、つまり当該職場のメンバーのうち、どの程度の割合の人が感謝のメッセージを送り合っているかという特徴を見出した。本レポートでは、このネットワークの密度を高める特徴を分析する。
 ネットワークの特徴には、観点1のような個人差要因ももちろん影響し得る。しかし、コミュニケーションを取りやすいかどうかは、個人差だけではなく、むしろ職場の状況という個人を超えた「集団」の要因によっても異なるかもしれない。具体的には本レポートでは、次の2つの可能性に注目し、分析を行った。
 1つ目が職場レベルのFFSの効果である。具体的には、①メンバーのFFSの平均値(どんな個性の人が多いか)、②メンバーのFFSの分散(ある個性について、色々な値の人がいるか、偏っているか)の2つの特徴に着目した。
 2つ目が職場の構造的な要因、特に職場の規模である。一般的には、大きい職場になるほど人間関係が希薄になりがちであり、人間関係構築という点で言えばフォローが必要になるのではないかという仮説を立てた。

観点3:個人差要因と職場要因の組み合わせ

 3つ目の観点が、上記2点の組み合わせの効果である。例えば、あるFFSの特徴が強い人にとって、コミュニケーションが充実させやすい職場と、そうでない職場があるかもしれない。もしこのような相性が存在することが定量的に明らかになれば、人材の配置などにも役立てる材料が得られる可能性がある。
 なお本レポートではこの点について、先行研究や理論から事前に仮説を立てることが困難だったため、様々な可能性について探索的に組み合わせの効果の有無について検討を行った。

 

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